実務
債権譲渡登記とは|ファクタリングで留保される理由
2社間ファクタリングの契約書に「債権譲渡登記は留保する」と書かれていることがあります。あるいは逆に、登記を求められて費用の話が出てくることもあります。
この登記が何のためのもので、なぜ留保されるのか、留保して困るのは誰なのか——ここを押さえておくと、提示された条件が自分にとって不利かどうかを判断できます。結論から言うと、留保でリスクを負うのは主にファクタリング会社側です。
債権譲渡登記とは
法務省は債権譲渡登記制度を、**「法人がする金銭債権の譲渡や金銭債権を目的とする質権の設定について、簡便に債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための制度」**と説明しています。
ポイントは3つです。
- **譲渡人は法人のみ。**法務省は「譲渡人は、法人のみに限定されています」と明記しています
- 対象は金銭債権。「指名債権であって金銭の支払を目的とするもの」に限られ、債務者が特定していない将来債権も登記できます
- 備わるのは「債務者以外の第三者」に対する対抗要件
3つ目が、この制度を理解するうえで最も重要な点です。
「第三者対抗要件」と「債務者対抗要件」は別物
債権譲渡には2種類の対抗要件があります。ここを混同すると、登記の意味を読み違えます。
民法第467条は次のように定めています。
債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
つまり原則として、売掛先(債務者)に主張するにも、それ以外の第三者に主張するにも、売掛先への通知か売掛先の承諾が必要です。2社間ファクタリングが売掛先に通知しないのは、この通知を避けるためです。
そこで登場するのが登記です。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産債権譲渡特例法)第4条第1項は、こう定めています。
法人が債権を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、同法第四百六十七条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす。
**「債務者以外の第三者については」**と限定されています。登記をしても、売掛先に対しては何も主張できません。法務省もはっきりこう書いています。
債権譲渡登記をしても、債務者に対しては、債権譲渡の事実を主張することはできません。債務者に対しては、登記をしたことを証する登記事項証明書の交付を伴う通知をしてはじめて、債権譲渡の事実を主張することができるとされています
同法第4条第2項も、債務者に対抗するには登記事項証明書を交付して通知するか、債務者が承諾することを要求しています。
だから「登記=取引先にバレる」ではない
ここがよく誤解される点です。**登記をしただけでは、売掛先に通知は行きません。**登記と通知は別の手続きです。
ただし「絶対に知られない」とも言えません。登記の内容は証明書として交付される仕組みがあり、そこには誰でも取れるものと限られた人しか取れないものがあります。ここを分けて理解しておくと、リスクの大きさを正しく見積もれます。
2社間・3社間の仕組みそのものはファクタリングとはで整理しています。
証明書は3種類あり、取れる人が違う
法務省は債権譲渡登記の証明書を3つに分けています。
| 証明書 | 記載される内容 | 請求できる人 |
|---|---|---|
| 登記事項概要証明書 | 登記されている事項のうち、債務者名等個々の債権を特定する事項を除いた事項 | 誰でも請求できる |
| 概要記録事項証明書 | 譲渡された債権を特定する事項や登記原因等を除いた事項 | 誰でも請求できる |
| 登記事項証明書 | 個々の債権に関する登記事項の全部 | 登記の当事者、譲渡された個々の債権の債務者、その他の利害関係を有する者のみ |
法務省は登記事項証明書について「債権譲渡登記・質権設定登記の当事者、譲渡された個々の債権の債務者その他の利害関係を有する者のみがその請求をすることができます」としています。
この区別が実務的に意味するのはこういうことです。
- **「あの会社が債権譲渡登記をしている」という事実は、誰でも調べられる。**概要系の証明書に個々の債権を特定する事項は載りませんが、登記の存在自体は分かります
- **「自社宛ての請求書が譲渡されたかどうか」は、売掛先なら調べられる。**売掛先はその債権の債務者にあたるため、登記事項証明書を請求できる立場です
つまり、売掛先が疑って動けば確認できる一方、何もしなければ通知は届かない。これが登記を行った場合の実態です。「絶対にバレない」でも「登記した瞬間に伝わる」でもありません。
なぜ登記が留保されるのか
2社間ファクタリングで登記が留保される理由は、大きく3つあります。
1. 費用がかかる
登録免許税は、法務省の公表によれば債権の個数が5,000個以下の場合で1件につき7,500円、5,000個を超える場合で15,000円とされています。これに司法書士へ依頼する場合の報酬が加わります。
この額は定額なので、**債権が小さいほど負担率として重くなります。**登録免許税7,500円だけを取っても、買取額100万円に対しては0.75%相当ですが、買取額10万円なら7.5%相当です。司法書士報酬を加えればさらに上がります。手数料が数%の世界で、少額債権に登記費用を乗せると採算が合わなくなる——これが「少額なら留保」という運用になりやすい理由です。
2. 時間がかかる
登記手続きを挟むと、即日入金とは両立しにくくなります。「最短◯時間」を売りにするサービスほど、登記を前提にしにくい構造があります。
3. 知られる可能性を下げたい
前述のとおり登記だけでは通知は行きませんが、確認できる状態には置かれます。売掛先に資金調達の事実を知られたくない利用者にとっては、登記しないほうが望ましいことになります。
そもそも登記の話が出るのは2社間だけ
見落とされがちですが、3社間ファクタリングでは登記は基本的に問題になりません。
3社間は売掛先に通知し、または承諾を得て進めます。民法第467条が求める対抗要件がその時点で備わるため、わざわざ登記で代用する必要がないからです。登記という手段が登場するのは、通知を避けたい2社間に限られます。
言い換えると、登記費用や留保の条件が話題になっている時点で、その契約は2社間です。3社間と2社間で手数料に差が出る理由のひとつも、ここにあります。3社間は通知によって対抗要件が備わり、売掛先が直接支払うため回収リスクが下がる。2社間は通知しないぶん、対抗要件を登記で備えるか、備えないまま(留保して)リスクを抱えるかの選択になります。
二重譲渡で勝敗を決めるのは「確定日付」
同じ債権が複数の相手に譲渡された場合、優先されるのは先に第三者対抗要件を備えた側です。そして民法第467条第2項は、第三者に対抗するには確定日付のある証書による通知・承諾でなければならないと定めています。
登記がこれを代替する仕組みは、動産債権譲渡特例法第4条第1項の後段にあります。
この場合においては、当該登記の日付をもって確定日付とする。
登記した日がそのまま確定日付になるということです。だから登記を済ませたファクタリング会社は、後から同じ債権を買った相手より優先されます。逆に留保している間は、この順番争いに参加していない状態になります。
将来債権も登記できる
もうひとつ実務上の論点があります。法務省は登記の対象について「債務者が特定していない将来債権も登記することができます」としています。
まだ発生していない売掛債権——たとえば受注済みで施工前の案件から生じる将来の請求権——も登記の対象になり得るということです。注文書や発注書の段階で資金化するタイプのサービスを検討する場合、この点が関係してきます。
留保のリスクを負うのは誰か
ここが本題です。登記を留保して困るのは、主にファクタリング会社です。
登記も通知もしなければ、そのファクタリング会社は債務者以外の第三者に対して「この債権は自分のものだ」と主張できません。もし同じ債権が別の相手にも譲渡されたら(二重譲渡)、先に対抗要件を備えた側が優先されます。留保している間、そのファクタリング会社は買ったはずの債権を失う可能性を抱えたままということになります。
利用者から見ると、これは2つの意味を持ちます。
- **直接的には不利ではない。**留保はファクタリング会社がリスクを引き受ける選択であって、利用者に義務が増えるわけではありません
- **間接的には手数料に反映されうる。**引き受けたリスクの対価が料率に乗ることがあります
したがって「登記を留保してくれる=親切」とも「登記を求める=厳しい」とも単純には言えません。登記の有無と手数料の水準はセットで見るのが実務的です。手数料の水準そのものはファクタリングの手数料相場で、各社がどこまで料率を公表しているかは手数料を公表している会社は何社かで整理しています。
「あとから登記する」条件に注意
契約によっては、当初は留保し、支払いが滞った場合に登記するという条件が設けられていることがあります。
この条件があると、滞納した時点で売掛先に知られる可能性が生じます。売掛先に知られたくないという理由で2社間を選んだのであれば、**この条件の有無は必ず確認してください。**契約書で「買戻し」「遡求」といった語を探すのと同じ要領で、登記に関する条項も通して読む必要があります。回収できなかったときの責任の所在についてはファクタリングの償還請求権とはにまとめました。
個人事業主は登記を使えない
法務省が明記しているとおり、譲渡人は法人のみです。動産債権譲渡特例法第4条第1項も「法人が債権を譲渡した場合において」と定めています。
したがって個人事業主・フリーランスが利用するファクタリングでは、そもそも登記という選択肢がありません。登記費用も原則として発生しない代わりに、ファクタリング会社は第三者対抗要件を備える手段を持たないまま取引することになります。この構造はフリーランスのファクタリングで詳しく整理しています。
契約前に確認すること
- 登記を行うのか、留保するのか
- 留保する場合、あとから登記される条件があるか(滞納時など)
- 登記を行う場合、費用は誰の負担か(登録免許税+司法書士報酬)
- 登記の有無が手数料にどう反映されているか
登記を行う契約なら、手続きのために印鑑証明書や登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の提出を求められます。当サイトが掲載23社の必要書類を集計したところ、**印鑑証明書を審査時に求める会社はゼロで、求めている3社はいずれも「契約時」の書類として挙げていました。**役所で取得する必要があるため、審査通過後に慌てないよう先に確認しておくと段取りが楽になります。詳しくはファクタリングの必要書類は何点かにまとめました。
いずれも見積もりの段階で書面での回答を求めてください。説明を避ける、書面化を渋るといった対応が返ってきた場合の考え方は違法・悪徳ファクタリング業者の見分け方にまとめています。
なお、登記が必要かどうか、どの条件が自社にとって不利かの個別判断は、契約内容によって変わります。金額が大きい取引や条件に疑問がある場合は、契約前に弁護士など専門家にご確認ください。
よくある質問
債権譲渡登記をすると、取引先に知られてしまいますか?
登記をしただけでは、売掛先に通知は行きません。法務省は「債権譲渡登記をしても、債務者に対しては、債権譲渡の事実を主張することはできません。債務者に対しては、登記をしたことを証する登記事項証明書の交付を伴う通知をしてはじめて、債権譲渡の事実を主張することができる」と説明しています。つまり登記と通知は別の手続きです。ただし登記された内容は登記事項概要証明書などを通じて確認できる状態に置かれるため、知られる可能性が完全にゼロになるわけではありません。
なぜ2社間ファクタリングでは登記が留保されるのですか?
主な理由は3つあります。1つ目は費用で、登録免許税に加えて司法書士へ依頼する場合の報酬がかかります。2つ目は時間で、登記手続きを挟むと即日入金と両立しにくくなります。3つ目は、登記された内容は第三者が確認できる状態に置かれるため、売掛先に資金調達の事実を知られたくない利用者への配慮です。ただし留保はファクタリング会社側がリスクを引き受けることを意味するため、その分が手数料に反映されることがあります。
個人事業主でも債権譲渡登記はできますか?
できません。法務省は債権譲渡登記制度について「譲渡人は、法人のみに限定されています」と明記しています。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律も、第4条第1項で「法人が債権を譲渡した場合において」と定めており、譲渡人が法人であることを前提としています。したがって個人事業主やフリーランスが利用するファクタリングでは、登記費用は原則として発生しません。
登記を留保すると、誰がどんなリスクを負いますか?
リスクを負うのは主にファクタリング会社です。登記をしなければ、その会社は債務者以外の第三者に対して自分が債権者であると主張できません。同じ債権が別の相手にも譲渡された場合、先に対抗要件を備えた側が優先されるため、留保している間は権利を失う可能性があります。利用者側にとっては、この会社側のリスクが手数料の水準に反映されうる、という形で間接的に影響します。
債権譲渡登記の費用はいくらで、誰が負担しますか?
登記そのものにかかる登録免許税は、法務省の公表によれば債権の個数が5,000個以下の場合で1件につき7,500円、5,000個を超える場合で15,000円とされています。これに加えて司法書士へ依頼する場合の報酬が別途かかるのが一般的です。負担者は契約によって異なり、利用者負担とする会社もあります。見積もりの段階で、登記を行うかどうかと、行う場合の費用を誰が負担するのかを書面で確認してください。
契約書に登記の話が出てこない場合はどうすればいいですか?
登記を行うのか留保するのか、そして留保する場合に後から登記される可能性があるのかを確認してください。契約後の一定期間は留保し、支払いが滞った場合に登記するという条件を設けている契約もあります。この場合、滞納すると売掛先に知られる可能性が生じます。資金調達を売掛先に知られたくないという理由で2社間を選んだのであれば、この条件の有無は確認しておくべき点です。